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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)9号 判決 1992年7月30日

福井県福井市小路町4字下円堂12番の1

原告

ニホン・ドレン工業株式会社

代表者代表取締役

内藤法栄

訴訟代理人弁理士

西教圭一郎

摩嶋剛郎

福井県福井市経田1丁目1602番地

被告

山本明雄

訴訟代理人弁護士

小谷愼一

同弁理士

岡本清一郎

主文

特許庁が昭和63年審判第1562号事件について平成3年11月19日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「集束暗渠管」とする登録第718104号意匠(以下、この意匠を「本件意匠」、この登録を「本件登録」という。)の意匠権者であるが、被告は、昭和63年1月30日、原告を被請求人として本件登録を無効とすることについて審判を請求した。特許庁は、この請求を同年審判第1562号事件として審理した結果、平成3年11月19日、本件登録を無効とする旨の審決をした。

2  審決の理由の要点

(1)  本件意匠

本件意匠は、昭和60年8月7日に出願され、昭和62年7月30日に登録されたものであって、意匠に係る物品を「集束暗渠管」とし、形態を別紙第一に示す、次のとおりとしたものである。

すなわち、本件意匠は、水抜きを要する地盤における盲排水工に際し、主に複数の管を集束した状態で土中に埋設し、土中の湧水あるいは浸透水を集排水する、いわゆる暗渠排水管に係る形態の創作に関するもので、その基本的構成態様は、本体を断面略倒S字状の細長い管体とし、内面に囲まれた、中央壁(S字形中央)を介し左右に相隣合う空室部を排水路とすると共に、上下各中央の、各長手辺の端縁(S字形先端)と中央壁の間の全長にわたる略細帯状の開口部各々を共に集水口とした上で、さらに、外面には、その上下各外側寄りに、複数の管を集束した際に各管の間に空間を形成し、主に水受けを良好とし又は排水路とするための、全長にわたる細長い板状突条を、各々1個ずつ計4個、互いに対称となるようにやや大きく略直角に突設したものであり、その具体的構成態様は、中央壁の上下各集水口付近の左右各面に、外圧が掛かった時に管体の各長手辺の端縁を係止し外圧による管体の変形防止をするための突条を、管体の該長手辺の端縁を挟むように各々2個ずつ、その全体は等間隔に計4個、管体の外面の板状突条よりも小さく直角に突設し、そのうち外側のものを、土砂粒侵入による目詰まり防止もするものとし、内側のものよりも小さく極く僅かに突出状としたものである。

(2)  引用意匠

請求人(被告)が提出した昭和51年8月11日公開の昭和51年実用新案出願公開第99908号公報(昭和50年実用新案登録願第17951号、考案の名称「盲排水樋」)に記載の第1図(断面図)、第2図(斜視図)及び第3図(集束説明図)の図面及びこれに関連する記載事項によって現わされた物品「盲排水樋」に係る意匠(以下「引用意匠」という。)の形態は、次のとおりのものである(別紙第二参照)。

すなわち、引用意匠は、水抜きを要する地盤における盲排水工に際し、主に複数の管を集束した状態で土中に埋設し、土中の湧水あるいは浸透水を集排水する、いわゆる暗渠排水管に係る形態の創作に関するもので、その基本的構成態様は、本体を断面略倒S字状の細長い管体とし、内面に囲まれた、中央壁(S字形中央)を介し左右に相隣合う空室部を排水路とすると共に上下各中央の、各長手辺の端縁(S字形先端)と中央壁の間の全長にわたる略細帯状の開口部各々を共に集水口とした上で、さらに、外面には、その上下各外側寄りに、複数の管を集束した際に各管の間に空間を形成し、主に水受けを良好とし又は排水路とするための、全長にわたる細長い板状突条を、各々1個ずつ計4個、互いに対称となるようにやや大きく略直角に突設したものであり、その具体的態様は、中央壁の左右各面の中央に、外圧による管体の変形防止をするための突条を各々1個ずつ計2個、互いに背中合わせに管体の外面の板状突条よりも小さく直角に突設したものである。

(3)  本件意匠と引用意匠との比較

<1> 両意匠は、意匠に係る物品が共通し、意匠に係る形態について、中央壁に突設した突条の個数、配置及び突出程度に差異があり、その余は、基本的構成態様をはじめとして共通する。

<2> これら共通点及び差異点を総合し、両意匠を全体として観察し、その類否について考察するに、差異点のうち、先ず、本件意匠の中央壁に突設した突条のうちの内側のものについては、外圧による管体の変形を防止するためにこれを設けたものであることは顕著な事実であり、このような手段は、この種の管体の分野では、この目的を具現化するに際し、当業者であれば誰しも容易に想到し得る程度のものであり、さらに、引用意匠と同様に管体の中央壁に突条を背中合わせに突設したものが、その出願前にもみられるところ、本件意匠のものは、単にその配置をずらしたまでのものであって、それら先行する意匠のものに比して格別のものではなく、しかも、該部の構成態様は、外観上管体の端面において初めて顕在化し、この部分においてのみ視認され得る程度のものであって、すなわち、この種長尺物の意匠に係る物品の構成上は極めて局部的なものといわざるを得ず、したがって、意匠を評価する上では、その差異は、殆ど類否判断に影響を及ぼさない微弱なものというほかない。

次に、外側の突条については、本件意匠のものは、単に集水口(S字形開口部)に沿ってそれをなぞるように現わして、略細帯状の開口部の各長手辺側の端面に対応させ、その突出程度も極く僅かとして開口部の一端を形成したものであって、その集水口の外観上の流れを遮断する程のものではなく、したがって、引用意匠の該部に比しても、視覚上はその有無はそれ程効果的といえないもので、意匠上評価することができず、やはり、その差異も微弱なものである。

前述のとおりであって、それらの差異を総合してもなお、本件意匠の中央壁における突条全体の構成態様は、引用意匠のものに比して顕著性がなく、意匠上格別の創作に至ったものとは到底いえない。そうとすると、差異点は、意匠全体に与える影響が微弱なものと認めざるを得ない。被請求人(原告)代理人の「中央壁突条の形状が本件意匠の要部である」とする主張は、意匠の類否判断の要素とはなり難い、主として機能上の利点に着眼し、観察したことによるものであって妥当性を欠き、したがって、意匠の類否判断という観点からみれば上述のとおりで、その主張には理由がなく採用できない。

一方、両意匠の形態における共通するとした点について、被請求人代理人は要部ではない旨主張するので審案する。

意匠が実用新案と共通する点は、一定の形式、つまり物品の形状等(形態)にその目的が具現されるものと解される点であるが、意匠は、実用新案と異なり、物品の外観に係るもので、視覚上の効果を本質とするものであるから、物品と不可分一体の構成要素全体を通じてその価値が具現されるものである。したがって、意匠の類否判断にあたっては、局所的観察ではなく全体観察によるを大原則とするのである。そうすると、意匠の要部は、意匠の形態における各構成要素を、たとえ、これらのいずれかが公知若しくは周知のものであるとしても、それをたやすく除外すべきではなく、その意匠に係る物品の用途及び通常の使用形態等も考慮し、これらを総合して前記観点から決せられるべきものであるから、たとえ、その主張するように、 「開口部を有する二つの空室部を隣合わせて一体に形成し、該空室の外面又は中央壁に突条を設けた基本形状」がありふれており、両意匠の共通するとした点に係る構成態様が「その基本形状の一つの態様」に該当するとしても、そのことが直ちに当該構成態様について両意匠の類否判断における要部性を阻害するものとすることはできない。本件意匠の場合、この種の物品の一般的機能から、排水路としての空室部と集水口としての開口部を設けることは必要な事項であるとしても、その形態は、一義的に確定するものではなく、この事項を充足するものは各種各様が想到され得ることは、両当事者提出の資料によっても明らかであり、したがって、これら各部をどのように関連づけ構成し、そして、全体の形態についてどのように具現化するかを思考し、決定するかの選択は多様で、その余地は十分に認められるところであるから、その選択の過程を経、一連の創意工夫の結果もたらされたと認められる意匠の最終形態の一部分について、当該物品の一般的機能から必然的に導き出される形態における一つの態様にすぎないとしてこれを除外することは到底できず、他にこの認定判断を覆すに足る証拠もなく、そして、さらに、本件意匠については、外観上各構成要素が有機的な統一あるものとして形成されていることは、前記認定のとおりである。以上によれば、両意匠の類否の検討をするにあたっては、その創作された態様の一部を除外すべき理由はなく、両意匠は、構成要素全体が物品「暗渠排水管」に係る形態の創作に関するものとして、意匠的判断における評価の原則に従って相当に評価されてしかるべきものである。してみると、両意匠の共通するとした形態における基本的な構成態様は、本体を断面略倒S字状の細長い管体とした点を骨子とし、さらにその外面に数個の板状突条を一定にやや大きく突設した点で一定のまとまりを表出し、両意匠の特徴を強く現わすところであって、両意匠の類否判断を左右する要部と認めざるを得ず、具体的構成態様における共通点である中央壁突条を設けた点を含み両意匠の共通するとした点は、殆ど意匠全体に及び、これら共通点が相俟って奏する両意匠の基調は、両意匠の共通感を強く惹起するところであって、差異点があるとしても、それは前述のとおりであって共通点を凌駕するほどのものではなく、両意匠は、その形態の創作において両者軌を一にし、全体として類似するものというほかない。

(4)  以上のとおりであって、本件意匠は、その出願前に頒布された刊行物に記載のものと類似し、意匠法3条1項3号に該当するものであるから、本件登録は、無効とすべきものである。

3  審決の取消事由

審決の理由の要点(1)、(2)及び(3)<1>は認める。同<2>のうち、両意匠の差異点である、本件意匠の中央壁に突設した突条のうちの内側のものについては、外圧による管体の変形を防止するために設けたものであることが顕著な事実であることは認め、その余は否認する。同(4)は否認する。

審決は、本件意匠と引用意匠の要部の認定を誤り、ひいて本件意匠は引用意匠に類似すると誤って認定判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。

本件意匠及び引用意匠に係る物品(以下、両意匠に共通する物品の名称として「暗渠排水管」を用いる。)は、土中に埋設されるものであるから、その耐圧性、耐目詰まり性、集水性について優れた機能が要求されるところ、これらの機能の優劣は、暗渠排水管の断面形状によって決定されるものであるから、断面形状は、この種物品の製造者及び需要者が最も注目するところである。さらに、暗渠排水管の需要者は、地方公共団体や公益法人等の公共工事の発注者であり、上記機能を厳密に評価し得る専門技術者を擁しているから、暗渠排水管の発注、購入に際し、その断面形状を詳細に観察するとみるのが自然である。

このような点からすると、需要者である公共団体等は、物品の用途から必然的に、基本的構成態様のみならず、それにもまして両意匠の断面形状における具体的構成態様、すなわち、上記機能を果たすために設けられる、中央壁に突設される突条の高さ、寸法、個数及び配置等について強い関心を払うものというべきであり、具体的構成態様が両意匠の要部である。

ところで、本件意匠と引用意匠には、審決認定の差異点が存するほか、暗渠排水管の中枢部分であって、最も見やすく看者の注意を引く中央壁部分には、次のような差異点がある。すなわち、

(1)  中央壁に突設した突条の高さと中央壁の厚みとを対比すると、本件意匠では、内側突条は中央壁の厚み1に対し約3であり、外側突条は中央壁の厚み1に対し約2であるのに対し、引用意匠の中央壁に設けた突条の高さは中央壁の厚みとほぼ同じである。

(2)  中央壁に形成される突条と管体のS字形先端との位置関係について対比すると、本件意匠では、内側突条と外側突条との各頂点を結ぶ中間点に上下の各S字形先端が臨んだ態様であり、S字形先端と内側突条の基部とが円形空間室中心点となす開口角度は約20度であるのに対し、引用意匠では、突条は中央壁の上下方向中央部に突条2個が背中合わせに十字形に設けられ、S字形先端と中央突条の基部との前記開口角度は約45度である。

(3)  上記突条高さのプロポーションと、S字形先端の開口角度の差異から、両意匠は、S字形先端と突条の構成する美感に著しい相違が生じる。すなわち、本件意匠ではS字形先端を、突出高さの比が3対2の内側、外側両突条間に安定的に挟持する態様が、中央壁の左上部と右下部に対称的に配設されて中央壁周辺に安定した印象を与える。これに対し引用意匠では、中央壁が十字形突条で分断され、かつS字形先端は中央突条から遊離して、中央壁周辺が全体として不安定な印象を与える。

以上のとおり、本件意匠と引用意匠の断面形状における具体的構成態様の差異は、共通する基本的構成態様を凌駕するものであって、両意匠に全体として別異の美感をもたらしており、本件意匠は引用意匠に類似していないものというべきである。

したがって、本件意匠は引用意匠に類似するとした審決の認定判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の反論

1  請求の原因1及び2は認める。

2  同3は争う。審決の認定判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

(1)  意匠は、物品の外観に係るもので、視覚上の効果を本質とし、物品と不可分一体の構成要素全体を通じてその価値が具現されるものである。したがって、本件意匠及び引用意匠に係る物品の需要者が原告主張のような専門技術者を擁しているとしても、先ず、一定のまとまりを表出し、両意匠の特徴を強く現わしている基本的構成態様に強く注意が喚起されるとするのが極めて自然である。また、専門技術者が本件意匠及び引用意匠の断面形状に最も注目するとしても、技術的観点からして、両意匠の基本的構成態様に深い関心を払うものというべきである。

以上の点及び基本的構成態様が一定のまとまりのある形態として需要者に印象的に映ることからすれば、基本的構成態様こそが両意匠に共通する要部というべきである。

(2)  原告は、中央壁の厚みに対する突条の高さの割合に関し、本件意匠と引用意匠に差異がある旨主張するが、この点は、長尺物としての管体の端部において初めて顕在化し、その部分においてのみ視認される局部的な構成に関するものであり、基本的構成態様から受ける共通した印象を破るほど顕著なものではない。また、S字形先端と内側突条(中央突条)の基部とが円形空間室中心点となす開口角度に関する原告の主張は、補助線を用いて説明を受けることにより初めて理解される程度のものである。さらに、中央壁突条の高さのプロポーションと、S字形先端の開口角度の差異から、両意匠はS字形先端と突条の構成する美感に著しい相違が生じる旨の原告の主張は、全体観察の上からは微差にすぎない事項に関するものであり、原告主張のような感情表現によって、類否の結論が左右されるものではない。

(3)  以上のとおり、本件意匠と引用意匠との各断面形状における具体的構成態様の差異は、共通する基本的構成態様を凌駕するほどのものではなく、両意匠はその形態の創作において軌を一にし、類似する旨の審決の認定判断に誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

2  そこで、審決の取消事由の存否について検討する。

(1)  本件意匠が別紙第一に、引用意匠が別紙第二にそれぞれ記載したとおりのものであること、本件意匠に係る物品は「集束暗渠管」であり、引用意匠に係る物品は「盲排水樋」であって、いずれも水抜きを要する地盤における盲排水工に際し、主に複数の管を集束した状態で土中に埋設し、土中の湧水あるいは浸透水を集排水する、いわゆる暗渠排水管に係る形態の創作に関するものであって、意匠に係る物品が共通していること、両意匠は、本体を断面略倒S字状の細長い管体とし、内面に囲まれた、中央壁(S字形中央壁部)を介し左右に相隣合う空室部を排水路とすると共に、上下各中央の、各長手辺の端縁(S字形先端)と中央壁の間の全長にわたる略細帯状の開口部各々を共に集水口とした上で、さらに、外面には、その上下各外側寄りに、複数の管を集束した際に各管の間に空間を形成し、主に水受けを良好とし又は排水路とするための、全長にわたる細長い板状突条を、各々1個ずつ計4個、互いに対称となるようにやや大きく略直角に突設した基本的構成態様において共通していること、本件意匠の具体的構成態様は、中央壁の上下各集水口付近の左右各面に、外圧が掛かった時に管体の各長手辺の端縁を係止し、外圧による管体の変形防止をするための突条を、管体の該長手辺の端縁を挟むように各々2個ずつ、その全体は等間隔に計4個、管体の外面の板状突条よりも小さく直角に突設し、そのうち外側のものは土砂粒侵入による目詰まり防止をもするものとし、内側のものよりも小さく極く僅かに突出状としたものであるのに対し、引用意匠の具体的構成態様は、中央壁の左右各面の中央に、外圧による管体の変形防止をするための突条を各々1個ずつ計2個、互いに背中合わせに管体の外面の板状突条よりも小さく直角に突設したものであって、両意匠は、中央壁に突設した突条の個数、配置及び突出程度に差異があることは、いずれも当事者間に争いがない。

(2)  そこで、両意匠の類否について検討する。

<1>  両意匠に係る物品である暗渠排水管の上記用途、使用態様及び各部位の機能からみて、両意匠は、本体を断面略倒S字状の細長い管体とし、その外面に細長い板状突条を4個突設し、中央壁に突条を突設した比較的単純な形状のものであり、自ずから形態上受ける制約は免れないところである。そして、この形状のうち、本体を断面略倒S字状の細長い管体とし、その外面に細長い板状突条4個を突設した点において、両意匠に差異は認められない。

<2>  これに対し、中央壁に突設された突条を対比すると、上記のように、本件意匠においては、同壁の上下各集水口付近の左右各面に、管体の長手辺の端縁を挟むように各々2個ずつ、全体として等間隔に合計4個突設しているのに対し、引用意匠においては、同壁の左右各面の中央に各々1個ずつ背中合わせに合計2個突設しているものであり、しかも、突条が突設している中央壁は両意匠のほぼ中央部分に位置していて注目されやすい部位である。

さらに、両意匠に係る暗渠排水管の中央壁に突設した突条の機能を対比してみるに、本件意匠に係る暗渠排水管の4個の突条及び引用意匠に係る暗渠排水管の2個の突条は、いずれも外圧による管体の変形を防止するために設けられたものであることは当事者間に争いがない。しかし、成立に争いのない甲第12号証(実用新案出願公告公報平2-48503号)、第13号証(公開特許公報昭56-105013号)によれば、引用意匠においては、上記のように、2個の突条が中央壁に背中合わせに配置されているに過ぎないため、少しの上下方向の外圧では管体の長手辺の端縁が突条に接触できず、大きな上下方向の外圧が加わったときは、端縁が突条に接触する以前に巻き込まれ、空室部が円形を保つことが困難であり、また、左右方向からの外圧に弱いのに対し、本件意匠においては、上記のように、4個の突条が中央壁に全体として等間隔に配置されているため、上下方向からの外圧が加わったときは、管体の長手辺の端縁はそれぞれ内側の2個の突条に当接し、左右方向からの外圧が加わったときは、端縁はそれぞれ外側の2個の突条の基部の近傍に当接して空室部の変形を防止すること、また、本件意匠の外側の2個の突条により、管体周辺の土粒砂が空室部へ侵入し目詰まりが発生することを防止することができること(この事実は当事者間に争いがない。)が認められる。これらの事実によれば、本件意匠に係る暗渠排水管の方が引用意匠に係る暗渠排水管に比し、土中における外圧対策、空室部へ侵入する土粒砂の目詰まり防止対策の点で、中央壁の突条に機能的工夫が加えられているものということができる。

次に、両意匠に係る物品である暗渠排水管の需要者は、その殆どが国、公共団体、道路公団等であって(このことは、成立に争いのない甲第11号証により認めることができる。)、上記物品の購入選択等は、これらの機関や請負業者である建設業者の専門技術者がこれに当たり、形状のみならず、機能的な点をも考慮して購入の選択等をするものと推認されるから、暗渠排水管の需要者は、管体の断面形状に強い関心を持ち、断面に現われる、略倒S字状の管体の内面に中央壁を介して左右に相隣合う空室部、集水口である開口部及び管体の外面に突設した板状突条により形成される基本的形状のみならず、中央壁に突設した突条の構成態様についても強く注意を引かれるものと認めるのが相当である。

しかして、意匠は物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に係るものであり、本件においては、物品の形状によりもたらされる特徴についての創作性が問題とされるのであるが、当該意匠に係る物品に機能的工夫が加えれば、それに応じて形状も変化し、機能的部分に着目すれば、自然その機能と不可分の関係にある形状にも着目することになるのである。この場合、機能的工夫により生じた形状に意匠的価値が生じることがあることは否定し得ないところであり、かような形状をもって、単に機能上の利点に由来するものとして、意匠の類否判断の要素としないことは相当ではない。

そこで、改めて意匠的観点から両意匠における中央壁の突条の形状の差を検討すると、本件意匠では、中央壁の突条が管体の長手辺の端縁を挟むように各々2個ずつ、計4個がほぼ等間隔で突設し、かつ、中央壁の厚みに比べ外側突条の高さがその約2倍、内側突条の高さがその約3倍であるため、突条の存在が目立ち、中央壁の左右各面に互い違いに顕著な凹凸が存在する印象を与えるのに対し、引用意匠では、中央壁の左右各面の中央に各々1個ずつの突条が背中合わせに突設していて、中央壁と十字形を形成しており、長手辺の端縁の外側には本件意匠のような突条がなく、かつ、その高さが中央壁の厚みにほぼ等しいため、突条の存在はさほど目立たず、中央壁の左右各面は比較的平坦に近い印象を与えるものであるところ、中央壁が両意匠の中央部分に位置していて目につきやすい部位であることをも考慮すると、意匠に係る物品がいわゆる長尺物であるとしても、上記差異は、両意匠の類否判断に当たって軽視することができない顕著なものというべきであって、微弱なものということはできない。

<3>  以上認定したことを踏まえて、両意匠を全体として観察すると、基本的構成態様は共通するものの、中央壁に突設した突条の構成態様及び中央壁の左右各面が与える印象の顕著な差異は上記共通点を凌駕し、看者に異なった美感を与えるものであって、両意匠は非類似のものと認めるのが相当である。

被告は、一定のまとまりのある形態を表出している点や技術的観点からして、基本的構成態様が両意匠に共通する要部である旨主張するが、上記説示した理由により採用できない。

(3)  以上のとおりであって、本件意匠は引用意匠に類似しているとした審決の認定判断は誤りであるから、審決は違法として取消しを免れない。

3  よって、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙第一

意匠に係る物品 集束暗渠管

説明 本物品は、公園、学校グランド、造成地等における暗渠排水工、その他地下水が原因となる地滑り対策において、土中に埋設して、土中の涌水あるいは四方からの浸透水を連続した、切れ目のない一直線状の開口部より集水し、相隣り合う2つの空間室を水路として排水するために用いるものである.図面中、参考斜視図は本物品の一部分で、省略部分は願書添附図面上886cmである.背面図は正面図と、右側面図は左側面図と、左面図は平面図と対称にあらわれる.

<省略>

別紙第二

<19>日本国特許庁

<51>Int.Cl2. E 02 D 29/02 E 02 D 3/10 <52>日本分類 86(2)B 26 86(3)D 111.3

公開実用新案公報 <11>実開昭51-99908

庁内整理番号 7505-26 6963-26 <13>公開 昭51(1976).8.11

審査請求 有

<54> 排水

<21>実願 昭50-17951

<22>出願 昭50(1975)2月8日

<72>考案者 出願人に同じ

<71>出願人 山本明雄

福井市高木町28の1

<74>代理人 弁理士 橋本順一郎

<57>実用新案登録請求の範囲

合成樹脂製の極体1を断面S字形に形成し、そのS字形曲面により囲まれる二つの空 2、2'の

水受部と.空 2、2'に外側から水を流入させる開口3、3'を設け、S字形 の中央部両側面に縦方向に 体1の変形防止用突条4、4'を設けた 排水 に於て空 2、2'の外側に縦方向に複数個の突 5、5'を設けたことを特設とする 排水 。図面の簡単な説明

図面は本考案の一実施例を示すもので、第1図は の断面図、第2図は同斜視図、第3図は 集束説明図である.

1…極体、2、2'…空 、3、3'…開口、4、4'…突条、5、5'…突緑.

<省略>

公開実用新案公報

<省略>

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